誹謗中傷の削除手順

一刻も早く削除を

インターネットには個人が開設しているブログやSNSなどいろいろなテーマの掲示板が無数にありますが、全く知らない人から、これらのツールを使って誹謗中傷されることがあります。誹謗中傷の投稿がされたとき、それを放置しておくと、知らないうちにどんどん拡散されてしまいます。典型的な例としては、ショップ店員が来店した芸能人の情報をツイートした人が本名、住所などの個人情報を特定されて拡散されるケースなどです。ことの発端は本人にあったとしても、個人情報を特定されて誹謗中傷のコメントとともに拡散されれば、その後どんな犯罪に巻き込まれるかわかりません。対策として最も急がれるのが、そのような誹謗中傷投稿の削除です。
名誉毀損で刑事告訴したい・慰謝料を請求したい場合も、まずは投稿を削除してこれ以上誹謗中傷の被害が広がることを防ぎましょう。
ネットの誹謗中傷を削除する手順誹謗中傷に関する書き込みの削除方法についてはいろいろな方法があります。具体的には、以下の通りです。
①サイト管理者(運営者・運営会社)に直接削除依頼する
②サイト管理者が削除依頼に応じない場合は、送信防止措置依頼をする
③送信防止措置依頼でも削除してくれない場合はIPアドレス情報開示
④IPアドレス情報開示に応じない場合は仮処分の申し立て
⑤プロバイダに発信者情報開示請求書を郵送
⑥プロバイダが開示請求に応じてくれない場合は開示請求訴訟
⑦発信者に対して削除請求訴訟 
①サイト管理者(運営者・運営会社)に直接削除依頼する掲示板やSNS、ブログなどは、そのサービスを提供しているサイトの管理者(法人の場合は管理会社)に対して誹謗中傷にあたる投稿により自分が被害を受けていることを伝えて投稿の削除を要求する方法があります。
この方法ですと投稿者と直接対応する必要がなく、また投稿者の個人情報を特定する必要もありませんので、手間も心理的負担も比較的軽く済みます。利用規約を確認する
アメブロやFC2などの無料ブログ、ブログやSNSにはそれぞれ利用規約が設けられていて、そのサービスの利用者は利用規約に同意したことになりますが、利用規約では誹謗中傷にあたる投稿を禁じていることが殆どです。
例えばツイッターの利用規約には、嫌がらせやヘイト行為などの攻撃的な行為を禁じ、それに反したアカウントはロックまたは永久凍結するという決まりを設けて対応しています。
まずは規約を確認し、自分が受けている誹謗中傷がそのサイトの規約に反しているかどうかをチェックしましょう。問い合わせフォームや連絡先のアドレスを確認する
合わせて問い合わせフォームやヘルプなどから運営会社にアクセスを取れ、そのサイトの管理に関して何かしらの要望ができる窓口があれば、直接管理者にコンタクトを取り、投稿の削除を依頼して対応してもらいましょう。
もしもフォームが用意されていなくても、連絡先のメールアドレスが記載されていることが一般的です。
この方法は、ツイッターを始めmixiなどのSNSやアメーバブログなどの無料ブログを始め、独自ドメインでサイトを運営している人に対しても使える方法です。
手間もかかりませんので、まずはサイトの管理人に対して直接削除依頼のコンタクトを取ってみるのが簡単です。
②サイト管理者が削除依頼に応じない場合は、送信防止措置依頼をする先ほども触れましたが、サイトの管理会社・管理人は「問い合わせフォーム」や「ヘルプ」などのページと合わせて規約違反の投稿について通報する専用窓口を設置しているところが多いため、通常はこのメールフォームなどを通じて誹謗中傷の投稿の削除依頼を行います。
しかし、中にはこういった誹謗中傷の対応窓口をオンライン上に用意していない管理会社もあります。
また、設置していたとしても管理者が削除依頼に応じないこともあります。投稿した側の表現の自由も保障しなければならないからです。
サイトの管理人が「この書き込みは権利の侵害にあたらない」と判断する場合もあるので、この場合は、プロバイダ責任制限法という法律で規定されている、送信防止措置依頼という手続きで、削除依頼を郵送で行う手続きに移ります。削除依頼書の作成からの流れ
郵送で削除依頼を行うときには、書式を自分で作成しなければなりません。管理者はそれを受け取った後、削除の対応を取ることになります。
運営者が判断して削除することが難しい場合は、誹謗中傷の書き込みを行ったサイトやブログの作成者に運営者がコンタクトを取り、削除しても問題ないかを照会します。
このとき、相手が反論しなければおおむね7日以内に削除という流れになります。
投稿削除の手順や方法は、プロバイダ責任制限法に関連するガイドラインに基づいて規定されています。
プロバイダ責任制限法のガイドラインを作成しているテレコムサービスという団体があるのですが、そこで誹謗中傷の削除依頼のための書式を用意しています。
送信防止措置依頼をするときには、この書式を利用して削除依頼を行うと書類作成の手間が大きく省けます。
こちらのサイトではプロバイダ責任制限法に関する情報を閲覧できるのに加えて、送信防止措置依頼書式のダウンロードもできます。
削除要請の書式はこちら送信防止措置依頼のメリット
無料ブログやSNSの管理者、レンタルサーバーの運営会社に送信防止措置依頼を行ったとしても、やはり削除するかどうかの判断は運営会社の任意です。
そのため削除依頼者が希望する対応をされないケースも少なくありません。
とすれば、個人的に削除依頼をするという意味でも、①と何ら変わりはないのではないかとも思えますよね。
しかし、①の場合と大きく違うのは、それがプロバイダ責任制限法のガイドラインに沿ってテレコムサービス協会によって作成された書面だということです。
書面を見ていただくとわかりやすいですが、送信防止措置依頼書にはしっかりと自分の住所や氏名を記入した上で、どんな権利が侵害されているのかなどを詳しく記載しなければなりません。
単に個人から「この書き込みは誹謗中傷に当たるので削除してください」という依頼をメールや問い合わせフォームから行うよりも、このような書面が郵送で届く方が心理的圧力がかかります。
書き込み削除の心理的圧力をかけられる「送信防止措置依頼」ですが、送信防止措置依頼ができない相手方もいるので注意しましょう。
送信防止措置依頼の対象となる相手方については、「プロバイダ責任制限法」によって「特定電気通信役務提供者」と定められています。
この「特定電気通信役務提供者」が指すものには、プロバイダやサーバの管理者だけではなく、法人や個人が管理しているサイト、書き込みが自由な掲示板のサイトなども含まれます。
しかし、裏を返せば、掲示板やコメントなどからの書き込みができない一般的なサイトに関しては、特定電気通信役務提供者には当たらないことになります。
そのため、そのようなサイトに対しては②は使えません。
③送信防止措置依頼でも削除してくれない場合はIPアドレス情報開示②の送信防止措置依頼を行ったとしても、実は削除するかどうかの判断は運営会社の任意です。
そのため削除依頼者が希望する対応をされないケースもやはり少なくありません。
次に取れる方法は、自分で投稿者を特定して削除請求を行う方法です。
慰謝料の請求や刑事告訴を考えているような場合にもこの方法で相手を特定する必要があります。情報開示請求のメリット
誹謗中傷の被害を受けた人の中には、「慰謝料請求とかそこまではしたくない」と考える人もいるでしょう。
しかし、発信者情報開示請求が認められることのメリットはそれだけではありません。
発信者情報開示請求をすると、窓口となるサイトの管理会社から本人に「情報を開示してもいいですか」という確認がいきます。
これまでは削除依頼に応じず、度重なる依頼に無視を決め込んでいたとしても、自分の個人情報が相手に開示されるとなってはそうも言っていられません。
この時点でやっと「事態が大きくなっている」ことに気づく相手方もいます。発信者情報開示請求は、相手に「削除しなければ個人情報を特定し、訴訟も辞さない覚悟がある」ことを伝える大きな手段になるのです。
しかし、この場合はホスティングサーバの運営会社やサイトの管理者に削除依頼をするよりも少し手間がかかります。まずは投稿者のIPアドレスを特定する(情報開示請求)
ネットの誹謗中傷ではアカウントやIDで誹謗中傷の投稿をされることが多いため、ほとんどのケースでは誹謗中傷の投稿者について本名や住所など、個人情報を知りません。
投稿者を特定するためにはIPアドレスを特定し、その後そのIPアドレスを元に利用しているプロバイダを特定、最終的に誹謗中傷の書き込み相手の個人情報を特定するという流れになります。サイトの管理人にIPアドレス開示を請求する
サイトの管理人に開示を求める情報は、IPアドレスであると書きました。
正確にはIPアドレスに加えて、誹謗中傷の書き込みが行われた時間(タイムスタンプ)の開示も請求します。
誹謗中傷が書き込まれた時間に誰にどんなIPアドレスが割り振られていたのかを知ることによって、そのIPアドレスを使用している人がどんなインターネットサービスプロバイダを利用しているのかを特定できます。
これは、先ほど書いた削除依頼の手順と同じく、オンライン上に対応窓口があればそこを通じて行います。
サイトの管理人の対応の流れも同じで、プロバイダ責任制限法に則って、開示請求を受けたサイトの管理人が書き込みを行った人に対して情報開示を許可するかの照会をおこないます。
ただ、誹謗中傷を行った投稿者の連絡先がわからないなどの事情があればこの照会手続きは省かれることもあります。
あくまで照会は任意のものです。 ちなみに誹謗中傷の投稿をした人には、この情報開示の照会が突然来ることになります。
情報開示を拒んだとしても、自分がしたことの重大さに気づいて自発的に投稿を削除する効果も期待できます。郵送の場合は「発信者情報開示請求書」を作成
サイトの管理人が専用の問い合わせフォームを用意していない場合は、削除依頼のときと同様にサイトの管理人に対して郵送でIPアドレスの開示請求を行います。
こちらもテレコムサービスが書式を作成しているので、それを使って行いましょう。注意!ログの保存請求を忘れない
IPアドレスがわかっても、インターネットサービスプロバイダが通信記録(ログ)を残していなければ投稿者を特定することができません。
しかしこの通信記録は3ヶ月〜6ヶ月で自動的に削除されることが多いため、ISPに対しては情報開示請求と合わせて「ログの保存請求」を行う必要があります。
なお、ログの保存請求についても裁判所の仮処分を申立てることが可能です。【補足】インターネットの仕組みと情報開示請求の流れ
しかし、なぜIPアドレスの特定から始めなければならないのでしょうか?
情報開示請求は結果的に2度行うことになり、煩雑ですし時間もかかります。
一度でできればそれに越したことはありませんが、そこを理解するにはまず、インターネットの大まかな仕組みを知っておくことが大切です。
家にインターネットを引いてブログやSNSを楽しむとき、まずはNTTやWiMAXなどのインターネット回線会社と契約し、さらにSo-netやニフティ、OCNなどのプロバイダ(インターネットサービスプロバイダ・ISPと呼びます)と契約することでインターネットを利用できることになります。
インターネットが使える環境が整ったら、ツイッターやブログなどいろいろなサービスを利用することになります。
このように、誹謗中傷の書き込みが行われるまでには①プロバイダと契約②ツイッターや掲示板などを利用 という2段階の手順があるのです。
そして、それぞれが保有している情報も異なります。
プロバイダを契約するときには、本名や住所、クレジットカードの番号など、重要な個人情報を相手に伝える必要がありますが、ツイッターや掲示板を利用するときにはこのような個人情報を伝える必要はありませんよね。
そのため、ツイッターなどに対して投稿者の本名などを聞いても、そもそも情報を持ってすらいないのです。
よって、まずは誹謗中傷がどのコンテンツでどんなIPアドレスからなされたのかを特定しなければならないということです。
④IPアドレス情報開示に応じない場合は仮処分の申し立てネットの誹謗中傷にあたる書き込みに対してプロバイダなどが削除依頼や発信者情報開示請求に応じてくれないとき、裁判所に処分を申し立てることができます。
ネット上の誹謗中傷や名誉毀損は放置するとさらに被害が拡大し、誹謗中傷された人や法人に大きな不利益を与えかねません。
そのため、誹謗中傷や名誉毀損を受けている人の利益を保護するために暫定的に行う保全措置が仮処分です。
仮処分のメリットはなんといっても対処が早いこと。もしも通常の裁判を起こしたとすれば、誹謗中傷の投稿削除についての判決が出るには通常半年以上かかってしまいます。
しかし、仮処分であれば数週間から数カ月で仮処分の決定が下されるのです。
ネットの誹謗中傷は迅速な対応が不可欠ですので、通常の裁判手続きを踏むよりも仮処分の申し立てを選びましょう。
ちなみに、慰謝料や損害賠償を請求するための訴訟は仮処分後でも起こすことができます。
ネットの誹謗中傷に関する仮処分として、削除の仮処分と開示請求の仮処分、開示請求と並行して行うログ保存の仮処分があります。
⑤プロバイダに発信者情報開示請求書を郵送IPアドレスが特定でき、インターネットサービスプロバイダがわかったら、ISPに対して発信者情報開示請求を行います。
無料ブログやSNSの場合
サイトの管理人は発信者情報開示請求について郵送での受付を行っているところが少なくありません。
発信者情報は本名や住所などの重要な個人情報ですので、手続きもしっかりとしたものである必要があるからです。
プロバイダ責任制限法のガイドラインを作成しているテレコムサービスでは、発信者情報開示請求書の書面も作成し、公開しています。
この書面を利用して情報開示請求書を作成しましょう。
このとき、請求書以外に公的な身分証明書のコピーや印鑑証明書の添付を求められることが多いため、必要な書類についてはしっかりと確認してください。
発信者情報開示請求書書式
独自ドメインの場合
情報開示はプロバイダ責任制限法に基づく利用者の権利とされています。
独自ドメインを取得して、レンタルサーバ(ホスティングサーバ)を経由してサイトやブログを作っている投稿者に対しては、ISPのほかにレンタルサーバー会社に情報開示請求する方法もあります。
判例でも、レンタルサーバー会社に対して発信者情報の開示が認められました。
レンタルサーバー会社によっては、しっかりと手続きについて明記しているところもあります。
独自ドメインサイトのIPアドレスから利用しているレンタルサーバー会社を割り出したら、そのレンタルサーバー会社の運営サイトに飛んで具体的な手続きについて確認してみてください。
⑥開示請求に応じてくれない場合は開示請求訴訟このように印鑑証明書などを用意して情報開示請求を行ったとしても、本名や住所などは重要な個人情報ですので、必ずしも開示されるわけではありません。
管理者らが情報開示に応じてくれなかった場合には、開示請求訴訟という訴訟を起こすことになります。
個人からの情報開示請求に応じる管理人はほとんどいませんが、法的手続きに則った上での開示請求とあれば話は別です。
⑦発信者に対して法的措置を取る発信者の個人情報が特定できました。
個人情報を特定して次にどうするかというと、直接「書き込みを削除してほしい」と交渉するのもいいですが、直接交渉して削除してくれるような人ならば、ここまで手順を踏む必要はなかったでしょう。
ここまでくれば、発信者に対して投稿削除請求の訴訟を起こすのが一般的です。
仮処分や訴訟の申し立ては弁護士に依頼が無難ネット上の誹謗中傷投稿に対して、投稿の削除を求める対策法について解説しました。
投稿の削除方法にはいくつかありますが、まずは費用も手間もかからない方法から始めてみるのも一つの方法です。
しかし、もしも管理者らに希望している対応をしてもらえなかった場合には、裁判所に仮処分の申し立てをして削除依頼や情報開示を要求していくことになります。
もしも情報開示手続きということになれば、
①IPアドレス開示の仮処分申し立て
②発信者情報開示請求訴訟
③本人に対して削除依頼訴訟という3つの法的手続きを踏むのが一般的となるのです。
このように、単に投稿を削除してもらえればいいだけなのに、その手続きはかなり煩雑です。
これは相手にも一定の権利が認められるからなのですが、その中でいかに要点を掴んで迅速に手続きを進められるかは、法律だけではなくITトラブルについて精通していること・経験豊富であることが大きく影響してきます。
ネット上の誹謗中傷投稿を放置しておくと、どんどん拡大して大きな不利益を被ります。
閲覧者を一刻も早く減らすことが対策の第一目的ですので、弁護士に依頼するかどうか迷ったときにはその点を念頭において判断することをお勧めします。